エンジニアのメンタル不調は営業がカギ

10月に突入し、コロナ禍でオリンピックやパラリンピックが開催された2021年も、早いものであと3カ月を切りました。過ごしやすい秋めいた季節になり、緊急事態宣言明けも手伝って、心が開放的になっている人も多いのではないでしょうか。知り合いも、控えていた出張が解禁になったそうです。ただ、冬の第6波の可能性も否めない今、引き続き感染予防を意識しつつ、健康に働き続けられるように留意したいですね。

ホームページをリニューアルしました!

現在、採用や人材教育の強化、人事制度の構築を進めており、また、会社のホームページもリニューアルして、バタバタと過ごす日々が続いていました。中途採用の社員インタビューも随時紹介していきますので、エンジニア転職に興味がある方は、ぜひ覗いてみてください!

心の病で離脱するエンジニアは増えている!?

本題に入りましょう。今回は、「心の病で、エンジニアが離職してしまう問題がなぜ起こるのか」というテーマで、お話ししたいと思います。今年9月の日経新聞に、NTTデータ経営研究所の調査において、働く人の約半数がメンタルヘルスの不調を抱え、そのうち新型コロナウイルス禍以降にストレスや悩みが増加した人は6割に上ったという記事がありました。当然、リモートワークなどの働き方の変化や、仕事や収入がなくなったなどの深刻な経済的変化も原因に挙げられると思います。

コロナ云々に関わらず、以前は特に残業が多かったこともあり、IT業界はうつになる人が多い業界だと思います。実際に周囲のIT企業やSES企業の方に話を聞いても、うつなどの心の病で、エンジニアが常勤先から離脱するケースは少なくありません。私の会社の社員には、そうした心の病になって休職や退職してしまったことはありませんが、外注先の営業の方から依頼を受け、その会社に所属するエンジニアを、弊社が取引する常勤先に仲介するケースがあります。その外注先のエンジニアの方が心の病で離脱するという事態が、この1年で2~3件ほど起こってしまいました。その原因を考え、いつも自分が社員に心掛けていることを振り返ったときに、いくつか防止ポイントがあると思いました。

質問できず自分で抱え込むエンジニアたち

 1つ目のポイントは、エンジニアに対する「営業のケア」です。心の病にかかりやすいエンジニアの特徴はさまざまですが、若くて経験が浅く、コミュニケーションが苦手で受動的なタイプが多いように思います。物事を深く考えてしまい、自己肯定感が高くなく、内向的な傾向も目立ちます。当然ながら経験が浅いエンジニアほど業務の不明な点が多くなるので、常勤先での不安は大きくなります。さらにコロナ禍でリモートワークになり、不明な点を気軽に聞けなくなったケースも増えたと思います。現場のリーダーもエンジニアの状況や表情が見えないので、「大丈夫?」と声をかけるタイミングを失い、エンジニアのアラームのような違和感を察してあげにくくなった状況も考えられます。

コミュニケーションが苦手で受け身なエンジニアほど、指示された内容が分からなくても、質問することに躊躇しがちです。「こんな常識的なことを聞いてもいいのかな…」「忙しそうだから聞くと迷惑かも」などと考えてしまい、とりあえずGoogleなどで検索して調べてしまう。そうなると、現場の上司やリーダーが30分や1時間でできると思って指示した業務が、2~3時間もかかってしまいます。

上司やリーダーが察して、「これぐらいの時間で終わらなければ、遠慮なく聞いてね」と、事前に一言声をかければいいですが、逆に「なんでそんなに時間がかかるの!」などと言ってしまうと、そのエンジニアはビクッと萎縮し、期待に応えられなかった罪悪感で、次に不明なことが出てきてもさらに質問ができない。孤立して自分で抱え込めば、ますます仕事が滞ってしまいます。そもそも「何が分からないかが分からず、どう質問していいか分からない」という駆け出しエンジニアもいます。相談する相手がいない真面目なタイプほど、自分でどうにか頑張ろうとするので、どんどん負のループにはまって心を壊してしまうのです。

それを阻止できるのが、SES企業の営業だと私は考えています。つまり、エンジニアが希望する常勤先をただ仲介するだけでなく、その後のケアも行うのが営業の業務だと思うのです。

いつでもSOSが発信できる安心感

弊社は、まだ大きな会社でないので、社長である私と社員との距離が近いのがメリットです。月1~2回の頻度で常駐先周辺のカフェやオンラインで「1on1」(過去記事参照:「離職率ゼロの経営者が大切にする「1on1」とは?」)を実施し、さらに任意で月1回の帰社日も設けています。「1on1」での話のテーマは社員に決めてもらいますが、「最近、仕事はどう?」「どんなことをしている?」「困っていることはない?」などと雑談しながら相手の話をじっくり聞き、私自身がエンジニア出身なので、専門的な内容や現場でのコミュニケーションの方法などもアドバイスします。仕事だけでなく、プライベートな相談を受ければ、できる範囲で答えるようにしています。時の人である岸田文雄首相の「聞く力」ではありませんが(笑)、相手の話を否定せず、遮らず、まずはじっくりと耳を傾けて聞く。それは、いつでも気軽に相談や意見できる関係性を築くような社員との心理的安全性を保つことに繋がり、言い換えれば、いつでもSOSを発信できる社員の安心感にも繋がります。

でも、外注先の営業の方々に、エンジニアのケアについてヒアリングすると、「エンジニアが真面目でしっかりしているタイプなので、何かあれば向こうから相談してくると思った。だから、営業側からコミュニケーションを取る必要はないと思って」とか、「エンジニア出身ではないので、専門的な質問をされても答えられない」などという回答が返ってきました。「担当しているエンジニアが20人以上いるので、正直、エンジニアのアフターケアまで手が回らない」という意見もありました。

重複しますが、真面目で内向的なエンジニアは多く、側からみるとしっかりしているようでも、自分で抱え込むタイプは少なくありません。ベテランエンジニアでない限り、営業側から定期的に声をかけることは大事だと思います。また、「エンジニア経験がないから、技術における悩み相談には乗れない」と営業側が一方的にシャッターを下ろしてしまっては、エンジニアの孤立は回避できませんよね。担当する別のベテランエンジニアに相談してみるなど、シャッターを下ろす前にできることはあるはずです。

担当人数が多くてアフターケアまで手が回らないという、営業の方の気持ちは分かります。知っている限り、50人以上のエンジニアを1人で担当する営業の方もいらっしゃいます。ベテランエンジニアが多いなど、担当が可能になるさまざまな条件があると思いますし、その企業方針として、エンジニアを常勤先に送り込めば営業の仕事はOKと定義しているケースもあるかもしれません。でも私は、エンジニアのサポートまで担うのが当たり前だと思って実践しているので、未経験やロースキルで転職したエンジニアが多い弊社でも、心の病で離職するなどの大きなトラブルがなく、今に至っていると考えています。やはり小さなコミュニケーションやケア、信頼の積み重ねが、トラブル防止につながっているとも思うのです。

エンジニアと常勤先がマッチしていない原因

心の病を防止するもう1つのポイントが、そもそも「エンジニアと常勤先がマッチしていない」ことです。これは一概に営業の責任とは言えません。エンジニアが常勤先に参画するに当たって、顧客先である現場のリーダーなども一緒に面談し、判断してもらうからです。例えば面談の時にスキルシートを見ながら、イエス、ノーで答える質問しかしなかった場合、エンジニアの本当のスキルや経験を聞き出せないまま、参画許可を出している場合があります。「できる」範囲の認識が採用側とエンジニア側で異なり、常勤先で働き始めてから両者が「こんなはずではなかった」となりがちです。

エンジニアが案件に参画したい一心で、できないことを「できます!頑張ります!」と、前のめりで答える場合もあります。やる気をアピールするのはいいのですが、現場のリーダーが、その場の雰囲気ややる気だけを買って勢いで採用し、「やはり無理だった」となってしまう残念なケースもあります。

そんなとき私は、面談が終わった後に、現場のリーダーにはそのエンジニアの強みだけでなく、弱みもハッキリ伝えて共有します。「強みだけでなく、弱みも認識した上で採用してください」と伝えるのです。すると、常勤先は冷静かつ総括的に考えることができて、本当にマッチングするかどうか判断しやすくなります。 あとは、マッチチングを成功させたい一心で、営業がエンジニアのスキルシートを盛りに盛っている可能性もあります。エンジニアが自分の実力より少し上の業務に挑戦することは自己成長のために大切ですが、スキルを盛りに盛るのはそもそも嘘ですし、結果的にエンジニアに過剰な無理をさせ、顧客先の信用も失うことになりかねず、全てにおいてハッピーではありません。

離職トラブルを防ぐアフターケアの具体策

晴れて参画許可が出た場合、特に若手やロースキルエンジニアには、最初は週1の頻度で、エンジニア本人に加えて、現場のリーダーにも「どうですか?」「大丈夫ですか?」と聞きます。短期スパンでお伺いを入れ、大丈夫だなと思えば、2週間に1回、1カ月に1回と、聞くスパンを伸ばしていきます。途中、ちょっと怪しいなと思ったり、両者の言うことが食い違うようであれば、「関係者で集まってちょっと話しませんか?」という対応を取ります。

「現場のリーダーに、何をどこまで聞いていいのか分からない」と言う駆け出しエンジニアもいます。そんな社員には、「何をどこまで質問していいのか分からなければ、一度踏み込んで質問してしまっていいよ」と話します。そこで明らかに空気が固まれば、質問すべきではなかった内容だなと線引きできる。「現場で質問しにくい内容は、私に相談してね」と伝えます。

また、現場が繁忙期の時や、何かトラブルがあって稼働が高くなった時は、エンジニア任せにしないように心がけています。つまり、プロジェクトマネージャーやリーダー、ベテランのエンジニアは、この先、どんなステップで収束に向かうかということが経験値で分かっていますが、現場で各業務を担当する若手エンジニアや経験の浅いエンジニアは、この稼働の高い状態がいつまで続くのか分かりません。全体の概要が分からないから、不安に陥りやすくなり、その時間が長ければ長いほど不安は増幅していきます。説明をしてあげるという安心感を与えるケアが必要になるでしょう。分からないことを少なくするようにサポートする、それが心の病の原因になる不安を抑えるのです。

このように考えると、SES企業の営業にはどんな能力が必要か、自ずと見えてくるのではないでしょうか。